緊急座談会 ~我が国デジタル化の今後について~(1/5)

1.政府のデジタル化に向けた取り組みについて

【安達】まず私から口火を切らせて頂きます。
  いま政府が進めているデジタル庁構想ですが、ここ最近の報道されている内容を見る範囲では、個人的に少々危うさを感じています。例えば、行政への届出文書への印鑑の省略や、マイナンバーカードに保険証や運転免許証との一体化などです。これらの施策は、デジタル化を進めるうえで非常に前向きな施策だと思うのですが、そうした施策を実施する前に考えておくべきことは、安心・安全なネット環境をいかに確立していくかではないだろうかと思います。
 マイナンバー一つとっても、個人情報が丸裸にされるのではないかといった国民の懸念は拭いきれておりません。もちろんマイナンバーによって個人情報がたどれて、丸裸にされることは仕組み上絶対にあり得ないのですが(笑)、大量の個人情報が流出した事件や、民間の決済口座を悪用して預金が引き出されるなどのネット犯罪は現実に起きているわけです。
 また、SNSを介したいじめや炎上、フェークニュースなども後を絶たず、デジタル社会に対して漠然とした不安を感じておられる国民も多いのではないかと思うのです。
 そこで、デジタルを国民生活に根付かせるためにも、デジタルによる安心・安全で暮らしやすい社会を構築するための構えを確立させることこそが、デジタル庁が真っ先に手を付けるべきことではないかと思います。
 行政への届出のためのハンコをなくすことや、マイナンバーカードの利用範囲を広げたりすることも大いに結構ですが、このような個別の施策を講じる前に、安心で便利な社会生活を実現するための基盤固めこそデジタル庁に課せられた課題ではないかと思うのです。
 そこで、いま政府が進めようとしているデジタル化の取り組みについてのご意見を伺いたいと思います。

【榎並】 政府のシステム設計の考え方は、システムの機能ばかりにとらわれていて、システムの運用について考えていないことが指摘できます。いくら機能があっても人による運用が回らないとシステムは動かないのですが、これまでの運用停止された電子申請システムなどの例を見ても同じことが言えます。
 ハンコの問題も、電子的に本人確認する機能としてはすでに電子署名があります。現在テレワークをやっているのに、なぜわざわざハンコ押すために会社に行くかと言うと、会社の丸印に該当する電子署名は制度として存在するのですが、角印に該当する電子的手段がないからです。領収書とか請求書や見積書などに実印に相当する丸印を押せるかと言うとそれは機能としては可能なのですが、運用上無理だろうということで、その角印に当たるeシールというものを政府が検討しています。個人の場合は、実印の代わりになるものとして署名用の電子証明書がマイナンバーカード入っているので、それを使えばよいのですが、普通認印として押しているハンコに対応する電子的手段があるかというとありません。
 では、認印の代わりに実印を押すかというと、機能としては可能なのですが、普通は嫌だと思うでしょう。認め印に代わる電子的手段が設計されてないのです。機能としては実印だけで動くのですが、認め印レベルの本人確認に実印は使いたくないという現実の運用をきちんと考えた上で、認め印レベルの本人確認が本当に必要かも含めてシステムの全体を設計しないと、世の中旨く動いてくれません。

【仙波】私は新しいデジタル庁を何故作るのかということがよく分からないのです。今も政府CIOなどがありますね。それが少し気になる。そういう組織とどういう風に住み分けていくのかなということがよく分からないのです。それらの組織は一緒になるのですか?

【森田】私もまだデジタル庁の中身を具体的には知らないのですが、基本的に各省が持っている権限をどれくらい持って来られるかが問題です。システムの予算査定に関しても、今は、政府 CIOやIT戦略本部の人が承認しないと予算要求できない仕組みになっています。
  初代の政府CIOは、無駄なシステムや査定がベンダー任せになっているところを削れということで大幅に削りました。 それは数千億円のオーダーだと思いますが、最初はそちらに注力していた。そのため使う方はマイナンバーは使えないし、申請を電子化するといっても相変わらずハンコの仕組みを電子化するもので、一向に進化しませんでした。海外の業者も使う税関の関税申請などはもう90数パーセントも使われている反面、民間の普通の申請のようなものはほとんど使われていない。ですから、e-TAXのように年に一回の業務のためにカードリーダを買ったり、ソフト入れたりなどの初期投資負担に加え、学習のコストが毎年かかるわけで、税理士さんならともかくとして普通の人が使うには非常に不便だろうと思うのです。
 誰が使うのか、使う現場が便利にならなければしょうがないではないかといった議論があったのですが、まずはコストカットをめざしたということです。コストカットが一段落して、前政府CIOの任期の最後のあたりから新しいグランドデザインのようなものを作り、それがある程度進み始めた時に今回のコロナの問題が起こって一気に行こうということになったと思います。

【仙波】政府CIOもそうなのですが、今度のデジタル庁は行政改革とのすり合わせが非常に大切だと思うのです。
 行革をやるためにデジタル化が必要であって、デジタル化するために行革というのはあり得ない話なので、ここをうまく対応して進めてもらわないと全く意味がなく、今までの継ぎはぎのデジタル化のままだと思うのですね。いま聞こえてくる話はそうした話ばかりで、オンライン診療をどうしましょうとかそういう話ばかり聞こえてくる。行革をデジタル化でいかにうまくやるかというストーリーが見えてこないなと感じるのです。

【安達】たしかに、ツールにばかり目を向けた断片的な政策ばかりが多く発出されているように感じますね。一つ一つのツールや手段にこだわって実現計画を描いても、結果的に社会全体の方向性をしっかり見定めないとおかしなものが出来上がってしまうように思いますし、それが私も一番恐れていることです。

【森田】そうですね。本当にパーツパーツの細かいところにこだわり、全体の中でそれがどういう意味を持つかという話がないです。私もこれほど急速に話が進むとは思ってなかったのですが、相変わらず部分最適化のようなシステム設計の話が多いですね。
 例えばコロナ情報を集めるHER-SYS 1という仕組みがありますが、こういう情報があると良い、さらにこういう情報もあると良いとばかりに、厚労省が様々な情報項目を立てて設計してしまったそうです。確かに、そうした情報が集まれば大変貴重な情報になるのですが、入力することの手間というのを考えてなかった。そのため、一つはシステムがなかなか繋がらないため「ウチはウチ流のやり方でやる」という東京都などの例もありましたが、もう一つは繋がったとしても現場の医療従事者が患者の対応で忙しい時にそんな面倒なことを入力できるかということになってしまっています。
つまり、フォーマット設計の段階から現場指導者の意見とかそういうものがあまり反映されていなかったということらしいですね。
  今度、医療情報関係も動き出します。被保険者番号をIDにしてマイナンバーカードを保険証として使えるようにするという仕組みですが、こうした仕組みに抵抗を感じていた関係団体などがなんとか飲んでくれる範囲で少しづつ一歩一歩前進しているのですが、 結局はそこ止まりなのです。例えば介護、医療保険や年金、負担の調整とセットであのシステムをもっと他とつなげていく仕組みを作ろうという視点はない。例えば運転免許証の更新の時の健康診断や、今回のコロナに関して基礎疾患のあるハイリスク者を選別するためにフィルタリングする仕組みとか、それらをリンクさせていくことは非常に難しいのではないでしょうか。
 しかもセキュリティを非常に重視した結果、かなり使い勝手の悪いものになって、それを一気にやろうとするのがデジタル庁だとすると、これまた何年後かに必ず後悔をすることになると思います。ならばそこを突破するような提言というのをどこかできちんとしないと、お隣の韓国のような使い勝手の良い仕組みにはならないと思うのです。デジタル庁構想は大いに結構なことで、やっと進むようになったかと思いますが、これではどんどん先進国から引き離されていたのが、少しは引き離され方が遅くなるかなという程度の気がします。
 基本的にデジタル化というのはあくまで手段であり、ツールであって、それによって何が便利になっていくのか、何を目指すのかが見えてこないと、なかなか国民の方に理解されないのではないかと思います。


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